第3章 例え自分が何者でも【山姥切国広】
俺は、死んだのか。
山姥切はその事実を驚く程あっさりと受け入れていた。
写しの俺には、ちょうどいいじゃないか。
自嘲交じりの呟き。
夢か現か、もはや判断はできないけれど、彼はぼんやりと当たりに流れる音を聞いた。
ふと、自分を誰かが抱き締める感触に、彼は驚いて目を開けた。
目の前には、よく見慣れた顔がある。
(……主?)
莉央は怯えたような泣き顔で、前方を睨んでいる。
(そういえば、遡行軍に襲われて……)
主の眼前には、自分が打ち漏らした敵が彼女を取り囲んでいるのだろう。
(俺は、自分の主すら録に守れないってわけか……)
写しだからか。
写しだから、俺は主を守れないのか。
もしも自分が、写しじゃなかったら……なんて、今更考えても詮ないことだろう。
写しだから……?
山姥切は自分の思考に疑念が、沸き上がってくるのを肌で感じた。
俺は写しだから主を守れないのか?
(それは、何に対する言い訳だ? 何に対して言い訳をしているんだ?)
写しであることは、主を守れないことへの言い訳になり得るのか? 俺はそれを、受け入れられるのか?
俺はそれで、いいのか?
「否!」
山姥切は飛び起きると、莉央の眼前まで迫っていた遡行軍に一閃浴びせた。
「山姥切!!」
背後で自分を呼ぶ声が聞こえる。
山姥切はそれを糧に、更に敵の群れへ突っ込んだ。
「俺は写しだ! だがそれを理由に主すら守れない自分なぞ……!」
山姥切が刃を振るう度に、敵が霧散していく。
「許せてたまるか!!!!」
最後の敵を切り裂いた山姥切は、刃を地面に突き立てて膝をついた。
「山姥切!!」
彼の側に近寄ってきた莉央が、山姥切の顔を覗きこむ。
山姥切も顔を上げ莉央を見つめる。
「怪我は?」
短く問う山姥切を、莉央は感極まって抱き締めた。
「私は大丈夫だよ! ごめんね、危険な目に合わせて……ごめんね!」
莉央の瞳から涙が溢れるのを、山姥切は乱暴に拭った。
「気にするな。それが俺の役目だ」
ふと、二人の体が光に包まれ始めた。
「やっと、戻れるか……」
山姥切は安堵のため息を吐いた。
莉央も、ホッと笑みを漏らした。