第3章 例え自分が何者でも【山姥切国広】
そんな彼らの本丸に、時間遡行軍の進軍を告げる警報が響いた。
「今すぐ出陣できるのはあなたしかいないけど……大丈夫よね?」
「ま、写しに出来ることなんてそう多くはないがな」
「……」
莉央は彼の言葉を否定したくもあったが、そんな暇はない。
どうやら、急を要するらしい。
「とにかく、敵陣の偵察を頼んだわ。後で準備を整えた援軍を送るから」
「了解」
短く答えた山姥切は、時間遡行の機械を作動させた。
その様子を見て機械から距離を置く莉央。
「待って! 山姥切!」
けれど彼女は、あることを思い出し再び彼の元へと駆け出した。
その声に振り返る山姥切。
しかしそれと同時に、機械は周囲の人間を山姥切が選んだ時代へと飛ばした。
機械の周りには、もはや誰もいなくなっていた。
山姥切は自分が飛ばされた場所をぐるりと見渡した。
どうやら、どこかの深い森の中のようだ。
そして、側にいる自分の主の姿が目に入ると、思わずぎょっとしてしまった。
「あんた! 何でこんなところに!」
莉央は申し訳なさそうな笑みで山姥切を見上げていた。
「えぇと……これ、渡したくて……気がついたら、巻き込まれてたの……」
莉央は握りしめていたものを山姥切へ恐る恐る渡した。
それは、お守りであった。
「俺に、わざわざね……」
山姥切は肩を竦めながら、それを受け取る。
「それで、これからどうする?」
「どうするって言っても、ねぇ」
二人は空を仰ぎながら考えた。
元の時代に帰る方法は二つ。
一つは元の時代の誰かが時間遡行の機械を操作すること。
もう一つは、一定以上時間が立つと自動で時間遡行の機械が作動し、強制的に帰還させられるのを待つこと。
「どちらにしろ、今の私たちに出来ることはないけど、その内戻ることはできるよね。うん、よかったよかった!」
莉央は目を輝かせている。
そんな彼女に、山姥切は辟易として頭を抱えた。
「何一つよくない。確かに俺たちは待っていれば帰れるかもしれない。だが……」