第2章 山を降りたら【山伏国広】
暗い森の中に、山伏の足音だけが響いていた。
暗い森は、莉央の心も暗くしていく。
「主殿、御加減はいかがですかな?」
けれどそれを切り裂くように、山伏の声が彼女の耳に届く。
「御加減……って、私は背負われている方よ? 山伏こそ、疲れていないの?」
「何、この程度普段の修行に比べれば軽いもの。主殿も筋肉を付けられい」
「……それは、考えておくね」
莉央は山伏の背中で苦笑いをした。
あぁ、なんて温かいのかしら、と考えながら莉央はその背に頬を寄せた。
もし今、彼に会っていなければ、今頃自分はどうなっていたのだろうかーー。
「主殿、夜の山は冷えます故、寒くなってきたらいつでも申してくだされ」
「……ううん、大丈夫」
だってーー。
その続きは、山を降りたら話そう。
「ねぇ、今日ね、あなたが顕現してから一年経ったの。覚えてる?」
「そうであったか。月日の経つのも早いものであるな。主殿には感謝せねばなるまい」
心底嬉しそうな言葉は、莉央の心をより一層嬉しくさせる。
「こちらこそ」
莉央は手に持った袋を強く握りしめた。
この気持ちがちゃんと伝わることを願って。
ーーENDーー