第2章 山を降りたら【山伏国広】
「カカカカ! 成る程、事情は分かり申した。しかし、主殿は些か不注意なところがありますな」
「う……否定はできない、です……」
莉央は山伏国広から受け取った水筒のコップを受け取りながら、頭を抱えた。
(でも良かった……迷い込んだ場所が山伏の修行中の山で……)
莉央は水筒の水を飲み干すと、深く息を吐いた。
……そういえば、山伏が普段どこで修行をしているかとか、ちゃんと聞いてなかったかも。
莉央はぼんやりと山伏の顔を見上げた。
「主殿、どうかなされましたか?」
「な、なんでもない!」
そんな彼女と目が合った山伏は、不思議そうに訊ねた。
莉央は反射的に目を反らした。
莉央の視線の先には、生い茂る木々で小さくなった紫色の空があった。
「あ、あの……水、ありがとう。……それで、どうやって帰るの?」
莉央は再び山伏を見上げた。
「心配召されるな! この山は拙僧の修行の場、すぐに机の主殿を本丸へお連れいたそう!」
「本当? よかった……」
胸を撫で下ろす莉央。
そんな彼女の前に、山伏は背を向けてしゃがみこんだ。
「え? あっ……でも、悪いよ。自分で歩けるって」
山伏の意図に気がついた莉央は、かぶりを振った。
「しかし主殿は大分お疲れであると見受けられる。さ、遠慮せずに」
しかし彼に絆された莉央は、逡巡の後に彼の背に体を預けた。