第2章 《レオ B.D》 その名前
ふうっと息を吐いてリアはあの言葉を言った。
「もっと自分に優しくしてあげてね。じゃないと心配。」
その遠慮がちな微笑みが自分の胸についた火を瞼にまで延焼させていた。
浅い眠りから覚めた頃、穏やかに差し込んでた陽の光は夜の帳を呼ぶように傾き、空と辺りを赤く染めていた。
ソファから体を起こすと机上に先ほどまでなかったはずのものがあった。
「アランか…」
イチゴサンドが二つ。『おめでとう』の一言が添えられて。
今朝、アランにお祝いをしておいて自分のことは全く期待どころか気にも留めていなかった。
相変わらずめんどくさそうにされちゃったけどこうやってちゃんと返してくれる。
不器用だけど強くて真っすぐな弟。
どうせ眠れないのだから夜の楽しみにとっておこうとその場では手を付けなかった。
執務室を出てジルの元に仕事の書類を持ってゆく。
途中で見えた中庭でリアがアランと何か話している。
楽しそうで心がほんのり温かくなる。
でも、どこかでチリと焦げるような熱い痛みが走った気がした。
「プリンセスまで貴方の心配を始めましたよ?
仕事は出来るのは大いに結構ですが誕生日くらい休んだらどうですか。」
書類を受け取りながらジルが言う。
「はは、仕事人間のジルが言うこと?」
プリンセスという言葉に一瞬無意識に身体が反応したがいつも通りかわす。
「私だってたまには休みます。
まぁ貴方が言ってきかないことくらいわかってますけどね。」
ため息交じりに諦めのような言葉が紡がれる。
「わかってるなら心配無用だよ。」
ひらひらと背中越しに手を振りジルのもとを去る。
自分のことを心配されるのは苦手だから。
ジルの執務室を出たら先程まで中庭に居たリアは居なくなっていた。
自室へ向かう廊下を歩く。
自分の足音と遠くで騎士団や王宮に仕える人々の声が聞こえるいつもの風景。
どんな時も見える風景色はそんなに変わらなかった。
そう、君が此処に現れるまでは。
「レオ!よかったぁ!」