第1章 《アラン B.D》君だけ
「ま、そーだな。手がかかるプリンセスの世話は容易じゃねーよ。ってかここまで来て今更それ言う?」
「うっ…ご、ごめんなさい。」
怒られた子犬のようにしゅんとするリア。
さっきまでの様子とは真逆でほんとに見ていて飽きない。
静寂の日々に突然現れたこの城下出のプリンセスは
王宮の雰囲気を一気に明るくした。
貴族とは違う城下出の彼女だからできるその人間味溢れるその様と無垢な心は王宮の人々を惹きつけた。
自然と興味が湧き、気づけばその姿を追っている自分。
「ばーか、怒ってねーよ。
そもそも俺が誘ったんだからそんな顔することないだろ。」
あやすようにその頭をくしゃっと撫でる。
「ほんと?」
俺の手の下から不安そうにこちらを伺う瞳。
「ったりまえだ。お前を心配することはあっても心配されるようなことはねーよ。」
そのまま頭ぽんっと軽く叩く。
きっと今、自分はらしくない顔をしているだろう。
「ふふ、そっか。ありがとう。」
そう、その笑顔が俺をそうさせる。
陽だまりのようなその優しい温かな笑顔が。
「あっ、そうだ!アラン、夜私の公務が終わったらちょっとだけ時間貰っていい?」
「ん?なんで?」
「素敵な海に連れてきたお礼をさせて。」
小首を傾けてまだ尚もお礼をしたいというリア。
らしいっちゃらしいけどそんなことされる程ではない。
「んなもんいーよ。俺もいい気分転換になったしな。
公務の後なんて疲れてるだろ、気にすんな。」
「だめだよ!お願い!」
パンッと手を合わせ拝むように礼をさせてくれという姿はなんだか可笑しくも可愛らしい。
「わーったよ。多分そのころは中庭か部屋に居ると思う。」
その言葉を聞いた瞬間のまた子犬のように瞳を輝かせるリア。
本当に見飽きない。
「約束ね!」
差し出された小さな手から伸ばされた細い小指。
それに自分の小指を絡ませると胸の中が鎖に繋がられたような感覚に陥った。