第3章 《ルイ》 はじめて
舞踏会会場のホールには参列者が揃い、今か今かとその主役の登場を待っていた。
「ハワード卿、お越しいただきありがとうございます。」
会場に現れたルイにジルが恭しく礼をする。
「あぁ、ジルもお疲れ様。」
いつもの素っ気無さでルイは答える。
「プリンセスとの仲を知りながらこのような催しをすることとなり申し訳ありません。」
いつものその心が見えないポーカーフェイスがルイに向けられる。
「いや、まだ宣言式もしていないし公になって居ない以上仕方がない。
でも、ジルならこの舞踏会を止められたはずだ。
止めなかったということは…大切なプリンセスをこんなことで動揺したり他の男に攫われるような男には任せられないだろうってところだろう。」
ほんの少し嫌味を乗せた余裕の笑みで返す。
「さぁ、なんのことだか。
プリンセスは貴方とのダンスを楽しみにされていましたので何卒、宜しくお願いいたします。
何かあれば遠慮なく声掛けください。」
「あぁ、ありがとう。」
お互いを牽制しながらも流れる空気は決して張り詰めず良い温度と距離感を保っていた。
自分の一番のライバルはこの男だと密かにルイは思っていた。
「プリンセス、リア様の御入場です。」
突如、その声は響きホールの上階の扉が開かれる。
ざわめいていたホールに静けさが落ち、一歩一歩とその待ち焦がれた姿が顕わになる。
階段の手すりに手をかけ、空いた片手はドレスの裾を掴み、前を見据えて降りてくる彼女の美しさに誰もが目を奪われる。
その恋人であるルイでさえその姿に息をのんだ。
ホール中央へやってきた彼女は深い礼をした後凛とした声で謝辞を述べた。
「皆さま、今夜はこのウィスタリアのため、私の為にお越しいただき誠にありがとうございます。
至らぬ点もあるかと存じますが、精いっぱいのおもてなしができればと存じます。
どうか、今宵はお楽しみくださいませ。」
その言葉を言い終えた後彼女は皆に向けてその花のような笑顔で再度礼をした。
「…まずいな。」
ルイは一人誰にも聞こえない声でつぶやき、ため息をついた。