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君と私と(非)日常

第17章 君と私と愛の鍵②


相手の妄想に合わせて、何らかの演出が起こるようだ。
私も話を合わせてみよう。
『拭いてくれてありがとう、キーボくん。……急に降ってきたからビックリしたね?。』
当たり障りのない言葉を選ぶ。
「えぇ、そうですね。これから新しい機能を付けに飯田橋博士の研究所に戻るところだと云うのに……ついてませんね」
キーボくんの博士の所に向かう途中だったようだ。
『新しい機能って何だったっけ?。』
「……! 誉稀さん、あなたは飯田橋博士の助手という立場にありながら忘れてしまったのですか? 新しい機能を付ける準備が出来たから早く帰ろうと言ったのはあなたでしょう」
どうやら私は今、飯田橋博士の助手になっているようだ。
分かりづらいなぁ……。
「……まぁ良いです、人間はAIと違ってすぐに物事を忘れてしまったり間違って覚えたりするものだと博士も教えてくれましたからね。………ボクの新しい機能は、学習や統計から見出だす反応や応答ではなく、ちゃんと感情を自分のものにし、自身の考えで対応出来る擬似的な「ココロ」だと聞きました。あなたが説明した時の声の録音もちゃんとしてますよ」
……うーん、キーボくんは妄想の中でも「ロボットとして人間に近づく」ってことが目標なのか。
どうせなら本物の人間になる妄想でもすればいいのに。
『…………。』
キングサイズのベッドの真ん中にキーボくんと一緒に座り込む。
窓がないから、雨が降ってるかどうかの確認もできない。
おそらく現実的には降ってないんだろうけど、判断するのはキーボくんだ。
「まだ止みませんね……雨音が一層強くなっているようですし、かなり待つことになりそうです」
『……そうだね。』
キーボくんには雨の音がはっきりと聞こえているらしい。
私には何も聞こえない。
静かな部屋で2人きりだ。退屈を埋めるようにポツポツと会話を進めていく。
「……それにしても、少し冷えませんか? 僕に内蔵してある温湿計の測定結果からして、人間の体感なら少々寒いはずです」
『そうだね。ここ暖房とか付けれたかなぁ。』
ベッドから下りて室内を見回す。
それらしきものは何処にもなかった。
『………ないっぽいね。まぁ仕方ないか。』
またベッドの上に戻ってキーボくんの横に座る。
「安いホテルですから、冷暖房完備とはいきませんね」
困ったような表情で薄っぺらいシーツを私にかけてくれた。
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