第17章 君と私と愛の鍵②
『結構ボロ勝ちしちゃったな……。』
暇潰しにカジノに入ったらスロットで次々当たり、止めるタイミングを見失ったまま数時間経った。
そろそろ景品と交換しに行こう。
『これと、これと、あとこれ……。』
もう他に欲しいものはないけど、あと10000枚残ってる。
一覧の隅にあるアイテムが目に入った。
愛の鍵だ。丁度手持ちのコインと同じ枚数で貰える。
『…………。』
この前の記憶は朧気で、いまいち誰と何をどうしたのかさえ分からなくなっていた。
記憶を持ち帰れたら人間関係が何か変わるかもしれない。
良くも悪くも変わるのだ。
だけどあの場所で過ごすには、招かれた人が愛の鍵の持ち主を理想の相手として妄想を繰り広げるのが大前提だから……記憶をそのままにするなんて危ないことだから、妄想を終わらせずに変化を求めるのは野暮なことだろう。
だけど、それでも気になってしまう。
あの場所で一体何があったのか。
もう一度あそこへ行けば何か思い出せるんだろうか。
それともまた新しい相手の妄想に付き合って夢に溶け込んでしまうんだろうか。
つい、そんなことを確かめたくなった。
夜は更け、私は個室を抜け出しラブアパートの前まで来た。
『……………。』
何かを思い出す気配はまだない。
私は愛の鍵でラブアパートの扉を開けた。
少しくらい見覚えのある部屋の中で相手を待つ。
こんな真っピンクの部屋なんて最初から記憶に焼き付いてるからどうでもいいのだ。
重要なのは、「誰と何をしたのか」なのだ。
隅々まで見るが、特に何もない。
何も思い出せない。
『…………。』
諦めるしかなさそうだ。
ベッドの上に寝て溜め息を吐いた。
「……大丈夫ですか?」
近くで声が聞こえて、上半身を起こす。
『あ……キ、キーボくん。』
出入り口のところにはいつの間にかキーボくんが立っていた。
「すみません……。ボクが雨宿りにホテルを使おうだなんて言ったから……まさかこんな卑猥なホテルだったなんて思いませんでした」
タオルで体を拭きながらキーボくんがベッドの近くまで寄ってくる。
「誉稀さんも濡れているでしょう。ちゃんと拭かないと、風邪を引いてしまいます」
そう言うと、キーボくんは私の髪や服の表面を持っていたタオルで撫でた。
『…………?。』
不思議なことに髪や服が少ししっとりと濡れている。