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君と私と(非)日常

第16章 船のなかで


希灯は想い人の話を振られたので、嬉しそうに霧切の向い合わせの場所に座り直した。

『えーっと……確か入学して1年後の春先、くらい?。………ごめん、学園時代の記憶を戻す手術受けたけどまだ曖昧にしか思い出せない。場所は教職員棟の2階だよ。窓のすぐ近くに登りやすい木があったの。』

首を捻りながらも、後半はスムーズに答える希灯。
霧切は嘘を吐いていないか探るような眼差しで数回相槌を打った。

『趣味で作った木登り用具が完成して、何処かで試したくなったの。……中庭に生えてる木は低いし枝が細いしなかなか良い木が見つからなくてさ、学園中を練り歩いてたら職員棟の裏側に丁度良い木を発見できたんだ。で、2階くらいの高さの所まで登って、悪戯心で窓を叩いたらイズルくんが出てきたってわけ。』

少し早口になりかけながら希灯は説明を終えた。

「……そうだったのね。もう1つ良いかしら? あなたは何故、そんなにカムクラのことが好きなの?」

それを聞くと、希灯は顔を真っ赤にして照れた素振りを見せる。
手で顔を隠すが、その手まで赤くなっていた。

『そっそんな好きとか……好きだけど、そんな…………と、友達として好きだよ………!。』
「そう、じゃあ友達として聞かせてほしいわ」
『う、うん……。イズルくんはね、愛想が全然なくて初対面の時は名前しか教えてくれなかったの。会いに行く度に少しずつ何かを教えてくれるんだけど、あるとき「超高校級になるために人格を捨てた」って事を教えてもらったんだ。なんかこう……手術で脳みそを弄られたらしいんだって。』

うろ覚えな所も多いみたいだ。
まぁ希灯の大雑把な性格から考えると正確な情報などあまり期待できないし、かと言ってデタラメや嘘を喋っているようにも見えない。

『イズルくんは心とか……感情がないって自分で言ってたけど、私にはそうは思えなくてさ。確かに何に関しても反応が薄くて会話もあんまり長くは続けてくれなかったりしたけど、やっぱり心はあると思うんだ。』

希灯は胸に手を添え、目を伏せる。

『本当に何も感じない脱け殻だったとしても、最初は空っぽだったとしても……心は必ず宿るんだよ。たとえそれが物であっても、接する人が居れば絶対に心が入るの。』
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