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君と私と(非)日常

第16章 船のなかで


『だからイズルくんがどんなに否定したって、私がイズルくんの中に心を感じれば、イズルくんにはちゃんと心があるってことになるんだよ。』

私はちゃんとイズルくんの心を感じた、と希灯は胸を張って霧切に言った。

『でもイズルくん自体はまだ全然自覚してなかったし、会えば会うほど表情が少しずつ増えていってる気がしたから……回数を重ねていけば、いずれは普通の人みたいになるのかなって思って何度も通ったんだ。そしたらいつの間にか好きに……い、意識するようになってたの。』

はっきりと言うのは恥ずかしいらしく、別の言葉に言い回しながら希灯は長い説明を終えた。

「…………」
『思い出せるのはこのくらいかな……本当はもっと色んな事を喋ったり思ったりしたんだろうけど、今の段階じゃわからない。ごめんね。』
「……いえ、別に大丈夫よ。教えてくれてありがとう」

霧切は聞いた話を頭の中で反芻させ、怪しい点がないかどうか探したが特に気になるようなことはなかった。
好きになった理由自体は至って不思議な所はない。接しているうちに相手の存在が大きなものになるなんて、そこら中に転がっている話だ。
状況こそ普通ではないが、希灯はごく自然な流れで好きになったのだ。
問題があるとしたら、希灯が思い出せない部分にあるのかもしれない。無かったとしても、これから組織で進める計画をカムクラが妨害しようとしたとき、彼女は手を貸さずにいられるのだろうか。

「…………」

いくら考えても結論はまとまらない。
出来ることと言えば、最悪の事態に備える対策を考えておく程度でしか動けない。

「(……とりあえず、希灯さんとカムクラの2人は極力接触させない方がいいわね)」

たとえ共に生き残った仲間だとしても、疑う余地があるのなら甘い目では見てられない。
場合によってはそれ相応の対処もさせてもらう事になる。もしそうなったら、お互いに覚悟をしなくては。
霧切はそう思いながら、近くまで見えてきたジャバウォック島を眺めて小さく溜め息を吐いた。




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