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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


顎に手を当てて考えるようにカムクラが言った。
今まで頑なに自身に感情はないと言っていたカムクラも、この合宿を通して考えに変化が出てきたようだ。
『……。』
本来であれば喜ぶべき予兆だったが、希灯は不安げに眉を下げる。
『それって……私のこと嫌いになる可能性もあるってこと?。』
「ゼロではないですね」
好きになる可能性があるなら嫌いになる可能性もある。
『(好きでも嫌いでもない、よりはマシなのかな……)。』
感情があってもなくても悪い方向に考えて不満に思ってしまう自分を情けなくも感じた。
カムクラの意思なら仕方がない。どうなろうと今までやってきたことの報いだ。
『……もし私のこと嫌いになったら、ちゃんと教えてね。』
言いながら、苦々しい表情になっているのを自覚した。これじゃあ嫌いになるなって言ってるみたいじゃないか、と希灯は嘆息する。実際のところ本当に嫌いにならないでほしいから尚さら情けなかった。
そんな希灯の顔をカムクラが覗き込みながら訊く。
「好きになった場合は教えなくていいんですか?」
期待もしていなかったカムクラの問いかけに、はたと希灯は目を見開く。
それはもちろん、教えてほしい。
すぐにでもそう答えたい希灯だったが、カムクラの至極普通な質問がどうにも思わせ振りな言葉に聞こえて恥ずかしくなった。
恋愛脳は自分自身で否定したはずだ。それにカムクラが言う「好き」は単なる馴染みとしての好情だろう。
何を残念がることがある?。望み通りの進展で間違いない。
「…………」
自身の心に言い聞かせ冷静になろうと必死な希灯が返事をしないものだから、カムクラは更に顔を近付けた。
「必要ないんですか?」
何やら黙考に耽っている希灯に呼び掛ける。そこでやっと目の前まで迫ったカムクラに気が付いた希灯は、驚いてビクッと一瞬全身を震わせた。
『うわ……近っ!。』
星空がカムクラで遮られている。我に返って狼狽える希灯を、長い前髪の奥から覗く真っ赤な双眸が訝しげに見つめた。
早く答えなきゃ。
希灯が焦りつつも、いつになく近い鼻先と、太股を撫でるカムクラの髪が気になって言葉が出ない。
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