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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


カムクラが喋っている間、希灯は静かに聞きつつも先ほどより更に強く拳を握り、その影響か肩に震えが出ていた。
『イズルくん。』
俯いていた希灯が顔を上げる。そして右手を自身の胸元まで持っていくと固く握り締めた。
『ごめんけど………1発殴らせて!!。』
振り返りざまに希灯が構えた右の拳を振りかぶりカムクラの胴体へと放つ。瞬間、希灯の右腕は避けたカムクラの長髪の間をすり抜け盛大に空振った。
付いた勢いで崩れた体勢を寸でのところで踏ん張って立て直し、希灯は再度カムクラに命中させようと拳を振るう。
しかし超高校級の希望であるカムクラに敵うはずもなく、幾度となく打ち出したラッシュは全ていとも容易く躱された。
自棄になり大きく振りかぶった最後の1発も無惨に空を切り、疲れてしまった希灯はヨロヨロと砂の上にへたり込んだ。
『避けないでよぉぉッ……!!!。』
汗と涙にまみれた希灯がギャン泣きしながら悔しさのままに叫ぶ。
スポーツや喧嘩のセンスが皆無の希灯の暴力など、ありとあらゆる才能を持っているカムクラにとっては飛んでくるタンポポの綿毛とほぼ相違なかった。
「大人しく殴られろと? 仕方がないですね……」
倒れ込んだままの希灯の傍にしゃがみ込み、カムクラは頬を差し出す。
「あなたの不満が少しでも埋まるよう、今回は避けずに受け止めましょう」
長い横髪を上げ、左頬が顕になった。
涙をボロボロと流しながら希灯はもう一度拳を構える。
『……………………いいよ、もう。』
希灯が萎えた様子で構えを止め、そのまま手を伸ばす。
そしてカムクラの左頬に右手を添え、やんわりと摘まんだ。
『私が殴る気失せるってわかっててこうしたの?。』
「想定内ではあります」
『やるかやらないかの想像なら誰だってできるよ……。確信がないのに差し出したってことなら、少しは許せるけどさ。』
希灯はカムクラの硬めの頬を両手でむにむにとしながら溜め息を吐き、それからその場に座り込んだ。
『ちょっと落ち着いてきた。……よかったらもう少し話さない?。』
「かまいませんよ」
海の方を向いて2人並んで座る。かなり遠くにキャンプファイヤーの明かりが見えた。
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