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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


「何がきっかけかは知りませんが、皆と過ごさなくなった理由があるのなら聞きましょう。僕には心理学者やセラピストの才能もあるのであなたの悩みに活かせるはずです」
『いらない。才能で片付けないで。』
振り返らないまま、希灯が俯いて答える。声色は先ほどより一層低く暗いものになった。
「僕に才能しかないのを知っていてそういうことを言うんですね」
『違うよ……。才能以外もあるでしょ。私が君に求めてるのはそこなのに。』
希灯は首を振りながら悲しそうに言う。
『イズルくんの心からの言葉が欲しいんだよ……。私のことどう思ってるか、とか。何が嬉しくて何が嫌か、とか。君の想いを知りたいんだ。』
「何度も言ったはずですよ。僕には感情なんてありません。あなたが僕に心を感じたとしても、それは勘違いや気のせいでしかないんです」
『じゃあ……この間、私のこと手当てしてくれたときは?。その時イズルくんのこと優しいって思ったんだけど、それも私の勘違いだって言うの?。』
「はい。ただあなたの処置が当てにならなかったので僕が治療するべきだと思っただけです。特別な情があったわけではありません」
希灯の体にはもう包帯や絆創膏はなかったが、新しくできた傷がたくさんあった。
見立て通り希灯は自身のケアに関心がない。あの時も自分が付き添わなかったら傷は放置されていただろう。
『それを心配っていうんじゃないの……?。』
すぐ真後ろまで来たカムクラへ、希灯が寂しそうな声で呟いた。
「心配ではありません。僕がそうしたかっただけです」
『何でそうしたかったの?。』
「……傷口が剥き出しだと不衛生だからです。前にも言いましたが」
『そう言うことじゃなくて……。』
希灯が振り絞るような声で言い淀みながら両の掌を強く握り込んだ。
「あなたの要望は矛盾しています。どうとも思ってない、と本心を言っても納得しない。僕の本心が知りたいと言いつつも、僕があなたを必要としているかのような言葉を聞きたがっている。しかし求めていそうな言葉を伝えてもあなたはきっと「それは本心じゃない」と言う。……結局、正解なんてあなたの中にすらないじゃないですか。あなたの意に沿う言葉など僕は持っていません」
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