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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


希灯は確かな足取りで一直線に向かってくるカムクラに狼狽えた末、踵を返して逃げ出した。
歩きにくい砂浜を出来る限り全速力で駆ける。ワンチャン追いかけるのを諦めてくれるかもしれない。そんな希灯の淡い期待はほんの一瞬で打ち砕かれた。
「逃げてどうするんですか?」
並走するカムクラが問いかけてくる。
『しっ知らないよ、そんなの……!。』
絶望しつつも走り続けながら希灯が返す。
逃げきれる訳がなかった。すでに追い付かれている。涼しい顔で横にぴったりと並んでいるのだから、勝ち目がないのは分かりきっている。
『今さら何……?。言いたいことでもあるの?。』
「あなたの最近の挙動を何人もが気にしています。元通りになるよう、あなたと僕で話し合いをするべきだと言われました」
『っ……そうだよね!。君ってほんと誰かに促されなきゃ動かないよね!。期待した私が馬鹿だった!。』
木の陰にいたあの時追いかけて来なかったのは本当に自分に興味がなかったからだと希灯は改めて確信した。
「怒ってますね?」
『うん!。でもどちらかと言えば悲しい!。』
声を張り上げながら必死に走る。
『鈍感!。野暮!。分からずや!。興味ないなら来ないでよ!。イズルくんのバカ……!。もう嫌い……!。』
2人で走り続け、希灯の持久力が尽きた頃ようやく立ち止まった。
息切れで喋ることすらできなくなった希灯を、平然とした様子のカムクラが見つめた。
力が入らず膝を突いて座り込んだ希灯は胸を押さえ乱れた深呼吸を繰り返している。
段々と呼吸が整ってきたのを見計らって立ち上がらせようとカムクラが手を差し出す。しかしその手を希灯はスナップを利かせ勢いよく払いのけた。打ち出されたバラ手をカムクラの手が難なく避ける。
『はぁ……はぁ……もう、ほっといてよ……!。私のことなんかイズルくんはどうでもいいんでしょ?。』
まだ苦しそうにしている希灯の目は怒りと悲しみに満ちていた。希灯から向けられる明確な敵意が珍しく、ほんの少しだけ気がそそられた。
「そうですね。どうでもいいです。他の方々から追いかけろと言われて来ましたが……あなたとどうなりたいとかは特にありません」
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