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君と私と(非)日常

第29章 ややこしい2人


向かい側にいるとは云え、結構な距離があるし火の爆ぜる音がパチパチと頻繁に鳴っている。そして周りの大勢の声も混ざり合っている。
よほど大声を出さない限りカムクラのところまで会話は届かないだろう、と判断し希灯は声量を低くしながら答える。
『君たちのせいじゃないよ。すごく、個人的な問題なの。』
「本当にそうなの? だったら……あいつに何かされたとか?」
『大丈夫。イズルくんは全然悪くない。全部私が勝手に悩んでるだけ。』
俯きながら言う希灯に、七海も問いかける。
「何を悩んでるのか……聞いてもいい?」
『聞いてもらいたいけど………分からないんだ、自分が一体何に悩んでるのか。自分がどうしたいのか、よく分からない。うまく……伝えられないかも。』
ジュースを両手で握り締めながら希灯が絞り出したような声で言う。
『私……自分で思ってるより欲張りだって気付いちゃって、それを考えたら今までやってきた何もかもが誰かの迷惑になってるような気がしたの。みんなにも、イズルくんにもずっと迷惑かけてたんだって……。そしたら何だか人に近付くのが恐くなっちゃって、嫌われたらどうしようって不安になったの。』
手がまた震えてだしていた。そして額にはうっすらと汗が浮いている。
どちらも気温のせいではなさそうだった。
『ここ何日かずっと1人で過ごしてたのはそのせい。誰かに相談する気が起きなかったけど、それも真昼ちゃんが心配する原因になってたんだね……。ごめん。』
「いいよ……謝らないで! 誉稀ちゃんだって悪くないよ」
膝を抱えて俯く希灯を小泉が気遣って慰める。
「希灯さんは……私たちや、カムクラくんとどうなりたい……?」
『そりゃあ、もっと仲良くしたいよ。輪に入ろうとすれば受け入れてくれるのも分かってる。みんな優しいから。……けど、今はそれができないの。』
希灯の顔から1滴の雫が落ちた。それが涙なのか汗なのか、宵闇と不規則に照らす炎の灯りのせいで2人には判別がつかなかった。
『どうしても、前みたいには振る舞えないの……。』
人間関係の悩みだと思っていた七海と小泉だが、どうやら苦しんでいる理由は希灯の心の問題が原因らしい。
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