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君と私と(非)日常

第28章 爺共からの床急ぎ


呟くように読みながら内容を理解しようとする。
『…………?。………………?!。』
何度も目で文字を追い読み返す。何かを見間違えたのかと思い重ね重ね確認するが、間違いなく排卵誘発剤だった。
『私、一体誰に何されるの……?。』
漠然とした不安が徐々に輪郭を作っていく。
これは洒落にならない程の身の危険が迫っているのか……はたまた手の込んだ趣味の悪いドッキリなのか。
密室のなか希灯はただ一人、膝を抱えて待つこと以外何も出来なかった。



暫く経った頃、部屋の外から聞こえた足音に希灯は耳を傍立てる。
誰か来るんだ。知らないオジサンが入ってきて私のことを使い捨てのオモチャみたいに酷く扱うんだ。
そんな想像をし青ざめ、ベッドシーツにくるまってドアを警戒する。
すると案の定この部屋の鍵を開ける音が聞こえた。
扉が開かれ、やがてタイル張りの床を革靴で踏むコツコツという音が希灯へゆっくりと近付いてきた。入ってきたその足音の主に恐る恐る目を向ける。
『………え。』
「……………」
現れたのは黒くて長い髪と真っ赤な瞳が特徴で、喪服のように真っ黒なスーツ着た青年だった。
『……イズルくん?。』
「静かに。今は初対面を装ってください」
口元に人差し指を立て、小声で黙るように促す。
ドアの外にはまだ研究員が立っているようで、「ちゃんとやるんだよ」とカムクラに声を掛けていた。
「じゃあ、もう鍵閉めるから。用を済ませたら内線で呼んでね」
それを最後に研究員は鍵をかけドアの前から離れた。
遠くなっていく足音を確認したカムクラは、溜め息を吐きながら希灯の横に座り込む。
『……イズルくん、大丈夫?。』
「あぁ……問題ありません。直前まで不快な動画を見せられていただけですから」
気分の悪そうな顔をしたカムクラを希灯が心配そうに見つめる。
『動画って……?。』
「ちゃんとしたやり方を知っておいた方が良いだろうと言われ、男女が行為に及ぶ内容の動画を延々見せられたんです。分かるから必要ないと言ったのに……」
『そうなんだ……。』
アダルトビデオを性教育に使うなんてどういう了見だ、とカムクラは眉間に皺を寄せる。
『水あるけど飲む?。』
「いえ、結構です……それより、今から子作りをする訳ですが本当にあなたはそれで良いんですか?」
『え………子作り?。』
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