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君と私と(非)日常

第27章 益体もない裁判


『ふぅ………。』
共用トイレの手洗い場の水道で顔を洗った希灯がタオルで水気を拭き取りながら廊下へ出る。
歩きながら、じわりと目元にまた涙が滲んだ。
『うぅ……イズルくん。』
立ち止まって涙を拭くが、次から次へと涙が溢れて収拾がつかなくなった。
「こんな夜中に何を泣いているんですか?」
『ぐすっ……イズルくんに、もう会えないから……私が死なせちゃったから……!。』
背後から聞こえた声に答える。その声は感情のない単調なものだが、希灯にとっては静かでとても安心できる声だった。
よく聞き慣れている、自分が1番好きな声だ。
『…………え?。』
「そうですか、寝言は寝てから言ってください」
背中を押されて自室まで誘導される。
押す人の姿を確かめるため振り返ると、そこには死んだ筈のカムクライズルが居た。
『あれっ、イズルくんだ!。何で?!。』
嬉しさと混乱で希灯は叫んだ。
カムクラは何を寝惚けた事をと言いたげに希灯の顔を覗き込む。
『生きてる……!。』
感激にうち震えながら希灯がカムクラを強く抱き締めた。
「何なんですか……起きたらほぼ全員居なくなっているし、戻ってきたと思ったらすれ違った方々から死人でも見たような顔をされるし……」
『そりゃそうだよ、イズルくんがテクノブレイクで死んだから皆で学級裁判やってきた後なんだもん。』
「テクノブレイク……? 才能に愛されている僕がその程度の加減も出来ないと思ったんですか。見下げられたものですね」
涙と鼻水がスーツに付くから離れろとカムクラは希灯を引き剥がす。
『……じゃあ、何で死んじゃったの?。』
「きっと夕方頃に先輩方から食べさせられた焼き菓子のせいでしょう。パティシエと薬剤師の共同製作だったので、おそらく仮死状態にする薬でも入っていたんだと思います」
学園内を歩いていたら安藤流流歌と偶然鉢合わせし、半ば強制的に押し付けられたらしい。
忌村静子から掠め盗ったよく分からない薬品を菓子に混ぜ込んでみたから誰でも良いので試食してほしいという要望だったそうだ。
「その場で食えと言われたので食べたんですが……薬の風味が消しきれてないし僕の方がもっと上手く作れる、と出来映えにケチを付けたら怒って帰ってしまいました」
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