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君と私と(非)日常

第25章 魔法の子


洗い物を全部拭いて元の棚に戻す頃には、ケーキもクッキーも完成しており私達のゼラチンもよく冷えて固まっていた。
各々皿や出来上がった菓子などをテーブルに並べて女子会の準備をする。
テーブルに突っ伏した状態の夢野さんに声をかけて起こすと、目の前の菓子の山に目を輝かせた。
「んあー、これは見事じゃの! ではさっそく頂くとするか」
『ちょっと待った。』
手を伸ばした夢野さんの腕を掴む。
『夢野さんにはしてもらうことがあるよ。だってその為に厨房にも入らずここで温存しててくれたんだものね?。』
「ん……んああ……」
困ったような顔で夢野さんが周囲を見回す。
「ケッ、どうせ魔法なんて使えねーよ。寝言ばっかほざくピグミーマーモセットに何かやらせたってどうにもなんねーんだから早く食っちまおうぜ」
入間さんがドカッと椅子に座って頬杖を突いた。
『ほら、料理が美味しくなる魔法。知ってるよね。』
「夢野さん、頑張って下さい!」
「んん……んおぉ………お…………」
プルプル震えながら夢野さんが手を構える。そんなことをしても出るのは手汗だけだ。仕掛けたのは私だけど、助け船を出した方が良いかと側で囁く。
『ほらほら、「おいしくなあれ」だよ。皆が作ったお菓子に加える最後の仕上げ、唱えてごらん。』
「んあぁ……! お、おいしくなあれ、おいしくなあれ……!」
手をお菓子に向かってもやんもやんさせながら唱え始める夢野さん。
求められている魔法が自分にも可能なものだと知ってか自信を取り戻したようだ。
その様子を入間さんがジッと見つめている。確か教育テレビとか好きなんだっけ?。ならこの仕草の意図はよく知っている筈だ。
「おいしくなあれ」なんて子供騙しのようなお呪いだった。本来なら作り手が唱えるのが一番なんだけど、今回は何もしなかった夢野さんと皆の労力を少しでも公平にするためにやらせた。その方が不満は起こりにくい。
絶対に美味しくなるとは限らないが、何もやらせないよりかはやらせた方が良かったはず。
必死に魔法と称したお呪いを唱えながら夢野さんはテーブルを一周する。
「おいしくなあれ、おいしくなあれ……」
「キャー、転子もお手伝いします! おいしくなあれっ、 おいしくなあれっ!!」
茶柱さんは嬉しそうな表情で夢野さんの後を追いかける。確かに魔法は見たがっていたけど、こんなものでいいんだな……。
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