• テキストサイズ

君と私と(非)日常

第23章 ラブコールサテライター


素直に言えたら良かったのにな。
不器用だったとしても他にやりようがあったはず。
後悔しても遅いのに、そんなことばかり考えて振り返ってしまう。
まぁ、私にはもう明日はないから、過去を思い返すことしか出来ないんだけどね。
最近流行ってる謎のウィルスの症状がもう末期だからさ、あとちょっとしか生きてられないんだよな。
今週に入ってから毎日のように吐血するし、呼吸困難も度々だし、座ってるだけで辛いからきっとお迎えが近いんだ。
生きることを諦めた訳じゃないよ。死ぬことに希望を見出だせただけ。
人は死んだら空の星になるんだぜ、と幼い頃の彼の言葉を思い出したから。
所詮は子供騙しだけど、生まれ変わりの逸話だって古今東西に存在するんだ。
どうせ遅くも早くも死ぬんだから、なるべく明るい気持ちで最期を迎えたい。
そうだ。どうせなら思い出の場所に行きたいな。
そう考えて足を進める。
自宅のあるマンションまで帰って、屋上に出た。
フェンスにもたれ掛かって景色を眺める。
ここは都会でも田舎でもない中途半端な町だけど、夜になればそこそこ良い夜空を見ることが出来た。
同じマンションに住んでた頃はよく星を眺めに行こうと誘われたものだ。
私は空の光を眺めてただけだったけど、解斗くんはいつももっとその先を見つめていた。
「空」を1つの天井として平面的な空間の認識をしていた私と違って、彼は果てしなく広い宇宙に思いを馳せていたようだ。
宇宙について楽しげに語る彼の姿を昔から見続けていた私には、いつか彼が本当に宇宙に行く日もあるんだと自然に思っていた。
だから大人になったら簡単には会えなくなるんだって覚悟もしてはいたんだ。
でもこんなに早くなるとは思わないじゃん。行ったっきり帰ってこないなんて思わないじゃん。
しかも遺伝子を残すために男女が同じくらいの数乗ってるんだから、私以外の女の子と結ばれる訳だ。
私はフェンスの上に組んだ腕の間に顔を埋めた。
細い溜め息が静かに漏れ出す。
ハッピーエンドなんてこの世にはないんだ。
たとえこの世にはあっても、私には用意されてないみたいだ。
あぁ、駄目だ。悲観に暮れてたらまた咳が出そう。
喉が痛いよ。血の味が濃いよ。息が苦しいよ。
背中を丸めて嗚咽混じりに咳を繰り返す。喉の奥からヒューヒューと風の音が聞こえた。
フェンスに掴まりながらも、立つ力が抜けてズルズルと崩れ落ちる。
/ 203ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp