第5章 5.
沙夜の頬に、大きく傷だらけの手が伸びる。
豊久だ。
「沙夜、沙夜泣くな。
お前(まぁ)に泣かれると、俺(おい)はどげんしたらいいか分からんくなる。
さっきみたいに、笑っちくいや」
豊久はひどく困惑しながらも、沙夜の目から溢れる涙を指で拭う。
沙夜は涙が止まらないまま笑顔を作ってみせるが、上手くいかず若干引きつった笑みになる。
それを豊久が違うと言いながら沙夜の頬を包み込む。
「笑っちくいやとは言うたが、そがいに無理に笑わんでもよか。
の?」
豊久が困ったように笑う。
その時、豊久の後ろでゴホン、と咳払いが聞こえた。
見るとそこには微妙な顔をした信長と、目が笑っていない与一が。
「いやぁ、砂糖を吐きそうなほどに甘ったるいですなぁ」
「あー…お前ら、空気読め?
五十路にこの空気はちと辛いわい」
豊久と沙夜は何のことだと首をかしげる。
それを見て信長はがっくりと項垂れた。
「自覚無しかよ…」
「信、この2人射抜きましょう。そうしましょう」
「やめてやれ、頼むから」