第5章 5.
今はオルミーヌから貰った札のおかげでエルフたちと意思疎通が出来ている。
こんな便利なものがあるなら通訳なんていらないななど思ったのはつい最近だ。
「俺(おい)はてっきり、四百年後の日ノ本で人は笑えんくなったち思ちょった」
豊久が腕を組む。
そんなことはない。
そう答えようとしたが、沙夜の口から言葉は出なかった。
いや、もちろん四百年後の日本でも人々は笑って日々を過ごしている。
キラキラと笑いながら通りすがる人々を見てきた。
けれど、自分はそんなふうに笑えたことはない。
その事実が、沙夜に重くのしかかる。
分かっていたのだ。
自分が"こちらの世界"に来てから上手く笑えていないことは。
"前の世界"では表面上は上手く笑えていた。
それが今はどうだ。
豊久たちやエルフの人々に心配されるほどに、笑えていなかった。
ーこれは沙夜の過去が原因だが、それを知るのはまだ先の話であるー
沙夜は目を伏せた。
…だが、豊久が続けた言葉に、沙夜はまた顔を上げることになる。