第3章 北の森【諾】
「ここ、入るべ」
ドアを開けた青年に促されて小さな木の家にお邪する。彼の家だろうか。柔らかな木の香りが私を出迎えた。
後から部屋に入ったその人は、パウンドケーキにクリームを塗って私に出してくれた。一緒に良い香りのハーブティーも置かれる。
「ありがとう。私は。あなたは?」
「ノーレ。こごに住んどる」
ノーレは悪い魔法使いにもアンシーリーコートにも見えないので、私は出されたおやつをいただくことにした。
「おめ、村の娘だべな? なしてこごに? 村のもんは森に寄り付かねぇべ」
「実は、髪を留めてたお気に入りのリボンが風に飛ばされてこの森に入っていったんだよね。追いかけて入ったら、リボンも見つからないし、迷っちゃって」
「んだら俺も探すの手伝うべ。……トロール」
ノーレが呼ぶと、大きなトロールが現れた。私はびっくりして腰を抜かしそうになる。
「こいつは俺の友達だから大丈夫だべ。トロール、のリボンさ探すけ。他の妖精達にも伝えんべよ」
私はノーレに言われてリボンの特徴を述べる。それを聞くとトロールは消えてしまった。とたんに家の外がざわめき始める。ただそのざわめきは不快なものではなく、まるで木がそよ風に揺れているような心地よいものだった。
私は気になって家から出ると、たくさんの妖精達が光を振り撒きながら舞っていた。私は初めて見る美しいその景色に息を飲む。
《見つけたわよ、ノーレ》
小さな妖精が私のリボンを携えてノーレの元にやって来た。
「これか?」
「うん、それ。ありがとう! そっちの妖精さんも、ありがとうね」
《いいえ、滅多にないお客さんだもの。張り切っちゃうわ! ……貴女、怪我してるわ、血の匂いがする》
妖精に言われて確認すると、膝に浅い切り傷が出来ていた。どこかの小枝に引っ掻けたのだろう。探し物が見つかり緊張が溶けたのと、指摘されて気づいたことによって急に痛みを感じ始めた。私は地面に座り込む。
「見せるべ」
ノーレが傷に手を置き、そっと傷口をなぞる。すると傷の部分が光に包まれ、怪我は跡形もなく治ってしまった。