第3章 北の森【諾】
嗚呼まさか、北の森に迷い混んでしまうなんて。私は自分を恨む。本当に、ちょっと入ってすぐに戻るつもりだったのに。
私は今、薄暗い森の中で絶賛迷子中だ。わずかな木漏れ日は星よりも暗くて、陽の光が足元まで届いていない。
北の森は妖精や魔法使いが住んでいるから、足を踏み入れたら帰れないと言われている。妖精というのは良き隣人にもなりうるが、同時に恐れるべき対象でもある。遠く離れた別の村ではアンシーリーコート(悪い妖精)によるイタズラで悩まされていると聞いた。
それゆえに妖精の知識が少ない自分達は妖精に近づかないことで自衛をしている。あれほど北の森には近づくなと言われていたのに、今さら後悔しても時は戻らない。
まだ昼下がりなのにこの暗さ。どっちへ進めばいいのかまるでわからない。しかしここで止まっていてもなにも始まらないので私は歩き続ける。
しばらく歩いて変わらない景色に疲れ、歩く気力を失った私は木の幹に座り込む。喉が乾いたし、お腹もすいたなあ。
「おめ、迷子け?」
誰もいないと思っていたのに突然声が聞こえて、私は驚いて飛び上がる。慌てて声の主を確認すると、すらりとした美しい青年が静かに立っていた。
「あ、うん、そう」
私はしどろもどろに肯定する。
「俺が案内さしてやるべ。そっだらことより、おめ腹はへってねが?」
「えっと、すいてる……けど」
素直に答えてしまう私。歩き疲れて余裕がない。青年は私が答えると夜空の瞳に私を映しながら言った。
「ついて来」
青年は不思議な人だった。彼だけ月明かりを浴びているように周りがほんのり明るい。そして彼と歩き始めてから、森に小さな光が舞うようになった。
北の森を警戒している私は少し不安だったが、それ以上に美しい光景に見とれていた。