【ONE PIECE】アイサレたくない恋【サッチ】
第2章 Customer➤Family
「悪かったって、そんなに拗ねないでくれよ」
拗ねモードになって空になったグラスを音を立てて置いたカウンターの向かいで、マスターがひたすら謝り続けて小一時間。
隣には殴られて伏せているおにーさんがいて、犯人は私ではない。
「だから余計な事教えるなって言ったんだ、サッチの阿呆が」
「余計な事」
「いや、違うんだ、そういう意味じゃなくてな」
「酷い…酷いよマスター!娘みたいに可愛がってくれたのは嘘だったの」
「嘘じゃないって!今でも可愛い娘さ」
「だからこそ汚したくなかったんだろうよ、お嬢ちゃん、わかってやれ」
そう言われては反撃の言葉も出なくなる。
復活したおにーさんの前に酒を置き、グラス磨きに専念するマスターはあまり現役時代の事を話したくなさそうだった。
気にならないと言ったら嘘になるけど、無理やり聞き出したいわけでもない。
いつか話してくれたらいいなぁ。
「ところで、いつまでいるの?もう一週間経つけど」
「ああ、明後日出航するんだってさ」
「明後日?はやいね」
「悪いな、言ってなかった」
そういう割にはけらけらと笑っていて、反省の色が見えない。
でも、そうか、明後日からは会えなくなるんだ。
別に寂しいとか、そういうじゃないけど。
…ないけど、物足りなく感じそう。
きっとおにーさんとの日々が刺激的過ぎたんだ。
「なぁお嬢ちゃん、俺たちと来ないか」
だからこそ、そう誘われた時、断ることも承諾することも出来なかった。
黙り込んだ私を見かねてか、話題を変えてきた。
「故郷はどこなんだ?」
「忘れたー」
「忘れた?何で…」
「って言うかよくここが故郷じゃないってわかったね」
「あー何かピンときたんだよな、どこか馴染んでないっていうか」
「馴染んでない…」
「おい馬鹿、今ナイーブになってんだよ、追い討ちかけてどーすんだ」
「わ、悪い!でも今ので俺たちの船に乗るって決意してくれたらラッ」
語尾はマスターの鉄拳で潰されたけど、どこまでも欲に忠実な人だと、怒りを通り越して笑えた。
言われるまで気付かなかったけど、もしかしたら歓迎されていなかったのかもしれない。
働き詰めで外に出ないことも多かったから友達なんていないし、会話をする町の人だって買い出しに行く時に会う人くらいで、交流はほぼ無いに等しかったのだ。
