【ONE PIECE】アイサレたくない恋【サッチ】
第8章 Darkness➤Brightly
翌日、朝早く例の宿屋へ行くともう旅立った後だった。
会えたところでかける言葉も向ける顔もないのだけど、少し肩を落としながら船へ戻ろうとした時、目の前に人が現れる。
前を向く気にもなれなくて、止めた足を右にずらせば真似られ、左にずらすも真似られる。
偶然じゃない、真似られたのだ。
嫌がらせかと苛立ちながら顔を上げれば昨日の男。
「やあ、前に会ったことない?」
「…もうちょっと考えたナンパにしてよ」
肩を竦め顔を右に傾けながら苦笑する。
懐かしい、苦々しい過去の記憶が蘇り、苦笑を返した。
何が目的かはわからないけど、向き合わなきゃいけない問題であるのは間違いなくて。
今まで逃げてきた自分と、今も隙あれば逃げようとする自分を叱責しながら隣を歩く。
「しばらく見ないうちに、さらに綺麗になったね」
「あなたは変わってないけど」
「僕の時間は止まったままだからさ」
「…ごめんなさい、今も昔も私は弱いままなの」
「分かってるよ。今日はそんなことを言いに来たんじゃないんだ」
少し歩いた町外れの小さな丘の上で、彼は膝をついた。
頭が真っ白になる。
ーあ、あの!結婚…して、くれませんか…!
ポケットから小さな箱を取り出し、開けて見せた。
中に入っているのは、一度つけて、返したはずの。
「僕と、結婚してくれませんか?」
「どう、して…?私は一度あなたを」
「どうしてかな。僕もわからないんだ。でも」
彼は綺麗な笑顔を浮かべた。
綺麗すぎて、恐ろしいほどの、笑顔を。
「同じ過ちは犯さない」
「過ち…?」
「あの時と同じ丘があるのはこの島だけでね。君のご両親の様子を見たらきっと、受け入れてくれると思って。僕は君が"スキ"だ」
「スキ…」
「結婚しよう、なまえ」