第7章 僕の記念日に、君の名を。【鶯丸】
「いつも、この緑茶買って行かれますね」
そう言って、温かい緑茶のペットボトルをレジへと通す。
まさか、五十嵐さんが俺を覚えていてくれてたなんて思わなくて、焦って、
本当は淹れたての方がいいのだけれど、時間が無くてといらない言葉を返すと彼女はニコリと笑った。
「お仕事、ご苦労様です」
そう言って、細かい物をレジ袋に入れると五十嵐さんは俺に差し出す。
その姿がまるで新婚の時にやるいってらっしゃい、みたいで俺の心臓はまた駆け足になる。
ピーピーピーと、レンジの音が鳴った。
いつか俺の心臓もこの音のように止まってしまいそうだ。
「こちら、三色丼になります。暑いので気をつけてお持ちくださいね」
彼女はそう言って、三色丼も袋へ包むとニコリと笑う。
今日、はじめて五十嵐さんと話した。
今日ははじめて記念日としてこれからずっと祝い続けよう。
そうと決めて、俺は彼女に会釈すると店を出る。
来た時よりも少し弱めの雨が、火照った体を少し冷やした。
「あの、待ってください…!」
店から出てすぐの信号のところで色が変わるのを待っていると、彼女は、肩を濡らして俺を追いかけてくる。
「ごめんなさいっ、これ、入れ忘れてしまって」
そう言って、五十嵐さんの手に握られた箸とスプーンとお手拭き。
とりあえず、彼女がこれ以上濡れないように少し傘を傾けると彼女は、また笑った。
「わざわざ、俺の為に…」
と、零すと五十嵐さんは、これが無きゃ温かいお弁当を美味しく食べられないじゃないですかと一際綺麗な笑顔を浮かべた。
ああ、本当にこの人が好きだと思ってしまった。
「また来てくださいね」
「…えっ」
「私、待ってますから」
彼女は、本当にごめんなさいと会釈をし、また弱い雨の中を走っていった。
ああ、今日は記念日にしよう。
毎年毎年、この日を祝おう。
箸もスプーンも、お手拭きも全て宝物としてとっておこう。
今日は彼女と喋った日、
今日は彼女と距離が縮まった日。