第2章 男花見
ひらひらと桃色の桜が雨のように舞い落ちる。
千鶴は、そんな風景をぼーっと眺めていた。
周りの幹部連中は、千鶴が一生懸命作った料理をつまみながら、豪快に酒を飲んでいた。
まさに、浴びるように飲むというのはこのことだ、と千鶴は変に感心していた。
とは言っても、それは藤堂、原田、永倉の三人だけ。残りは、少しずつ酒を飲んでいた。
(花より団子ってこういうのを言うんだろうな)
「雪村、楽しんでいるか?」
千鶴が一人で笑みを浮かべていたからか、近くに座っていた斎藤が千鶴に話しかけた。
「はい。とっても。皆さんが楽しそうなのを見るだけで楽しいです」
「そうか・・・」
周りの喧騒も気にならないくらい、二人の周りにはふんわりとした雰囲気が漂っていた。そこに、再び沖田が話しかける。
「千鶴ちゃん。君もお酒飲んでみる?」
「総司、雪村は酒が飲めないんだぞ。勧めるな」
斎藤は再び会話を邪魔されたことに怒っているのか、少し不機嫌な声色で言った。しかし、沖田はそんなこともお構いなしのようだ。
「少しくらいなら、千鶴ちゃんも大丈夫だよねぇ?」
「多分・・・大丈夫じゃないです」
「総司!飲めねぇ奴に無理矢理勧めるな!」
そこに大きな怒鳴り声が入ってきた。
その声に千鶴は小さく肩を震わせる。
「土方さんってなんでそう怒鳴る事しか出来ないんですか?千鶴ちゃんが怖がっているでしょう?」
沖田が呆れたように言った途端、どこからか高笑いのような声が聞こえた。
「貴様らはこんなにも美しい桜を愛でる事も出来んのか。さすがは、幕府の犬だな」