第3章 With Jonah(ヨナ) Act2
中に入ると、赤も黒もなく色々な人が分け隔てなく、会食を楽しんでいた。
そんな中で、一際目立つ、背の高いあの人を見つけて、アリスは思わずヨナの手を振りきり走り出す。
「シリウスさん…!」
「…アリス?」
見違えたとばかりに、アリスを見て、目を一瞬見開いたシリウスは、いつもの優しい笑顔を浮かべる。
「今日は気合い入ってんな。」
「へへへ。」
それはもう自然に、ポンポンとアリスの頭を撫でるシリウスと、それに甘えるアリスの様子はまるで兄妹のようである。
追いついたヨナはやはり怪訝な顔をするが、アリスの嬉しそうな様子を見ては、かける言葉に躊躇した。
「アリス…」
「あ、ヨナ。…ゴメンなさい、シリウスさん。また後で。」
「ああ。」
少し距離のある場所で、寂しそうな顔をしているヨナを見たアリスは、慌てて駆け寄った。
「ゴメン。勝手に走り出して。」
「……」
「ヨナ、ゴメンって。」
床を見つめるヨナは、珍しく元気がない。さっきから何か変だとは思っていたものの、アリスには見当がつかない。
そして唐突にボソリとヨナが呟いた。
「…花咲か…じゃなくて、黒のクイーンは頼りがいがある?」
「え…? あ、うんまぁ…」
「どんな風に?」
「んー… やっぱ大人っぽいっていうか、あの大きな手で頭撫でられると、安心するし。頼りにできる感じかな。」
「…そう」
言って、ヨナはフラフラとアリスの傍を離れていった。その背中が小さくなってから、アリスは心配になって追いかけようとしたが、生憎人混みが阻んで上手く前に進めない。
「ま、まずいっ…ヨナを見失っちゃう…っ!」
動きにくいドレスの裾を掴みながら走るのは困難を極め、ヨナの姿は完全に人混みの中へと消えた。