第19章 風邪×ハプニング
誰のとか、そんなのじゃないかもしれないのに。
どうしてもそんな風に考えてしまうんだ。
それが嫌で、またぎゅっと抱き締めた。
「…與儀さん、鼻声じゃなくなりましたね。」
松岡ちゃんの可愛い声を聞くだけで、嬉しくて語尾が跳ねる。
「うん!俺ちゃんと薬飲んだもん。」
(松岡ちゃんの傍にいるためだったら、苦いけど薬も飲むよ。)
「ね、偉い?」
「そうですね、偉いです。」
「ホントに??じゃあ、撫でて。」
そうして前に頭を出したら、少しの間の後に優しく撫でてくれた。
(甘えちゃってる…でも嬉しいなぁ…。)
花礫くんはすっごい怖い顔してるけど。
それからまた松岡ちゃんを見下ろすと、やっぱり花礫くんを見てる。
それからぎこちなく編み物を始めた。
(…俺はね、こんな風にできるのが凄く嬉しい。
それと同じくらいドキドキもしてるよ。
でも君はどうだろう…
今だって落ちついてて、いつも通りで、
花礫くんを見てて。
俺にこんな風にされてて何とも思わないのかな…。)
なんだか頭が痛くなってきた。
ボーッとして、自分で考えてることなのにちゃんと理解出来てない。
(逃げないのは…ちょっとは期待してもいいってことなのかな。
…期待?何の?)
またふわりといい匂いが鼻をかすった。
(……俺…)
真剣に編み物をしている彼女を上から覗いた。
体が熱くて、息が苦しい。
(…綺麗だな…。)
白い肌も、長いまつげも、愛らしい…
ピンクの唇も。
(…甘い、のかな…。)
そっと松岡ちゃんの頬に手を添えて、振り向かせた。
この後の記憶はほとんどない。
少しだけ覚えてるのは、
…かすかな柔らかい感触とわずかな甘さ。