第21章 壱組の人達
~與儀side~
「はあ、はあ…っ」
「あ、ごめん!」
後ろから荒い呼吸が聞こえてきて、慌てて足を止めた。
「大丈夫??」
「はい、大丈夫です…。」
喰くんに押されてとりあえず必死に走ったから、松岡ちゃんは着いてくるのに必死だったんだろう。
顔は少し赤くなってて肩で呼吸をしている。
「ごめんね、俺…」
赤くなった顔に触れようとすると、松岡ちゃんは1歩後ろに下がった。
(え…?)
「私の方こそすいません…!
…それより、なんだったんでしょうね。
急に走れって…。」
「ああ、うん…そうだね。」
普通なようで、普通じゃない。
さっきまで腕を掴んだり引き寄せたりしてたけど、大事なことを忘れてた。
(そうだ、俺…松岡ちゃんに…。)
キスしたんだ。
避けられるのは当たり前。
(…解ってるけど、いつも通りじゃないのは辛いな…。)
誰だって避けられるのは嫌だ。
会話してもぎこちなくて、弾むどころか続きすらしなくて。
…でも、それだけじゃない。
起きたばっかりの時はちょっと混乱しててちゃんと記憶がなかったけど、さっき…
喰くんといた松岡ちゃんを見た時、思いだした。
2人の距離が凄く近くて、嫌で。
喰くんが松岡ちゃんに触れてるのが、嫌で嫌で。
触らないで、って。
近づかないで、って。
…ああそうだ、俺彼女が好きなんだ。
あの時、キスした時そう思ったんだって、一気に思いだした。
それが分かった途端、2人だけでいるのを見ていたくなくて。
考えるよりも先に体が動いてた。
松岡ちゃんの手を引っ張ったんだ。
俺の近くにいてほしくて。
2人が楽しそうとは言えないけど、話してるのが羨ましかった。
喰くんが言った“俺がいるから戸惑ってる”ってのは、本当かどうか俺も聞きたかった。
もしそうなら、どういう意味なんだろう。
キスした俺を嫌いになったから、近づかれて戸惑ってる?
それとも…もっと、別の理由で?