第19章 風邪×ハプニング
「ほえ?…あ、與儀さん。」
急に「ウザい」なんて言い出すから、不思議に思って彼が顔をしかめてるのと同じ方向を見る。
すると、ドアの陰からこっちを覗いてる人が。
どうしたのか聞いたけど、黙って立ったまま。
その顔はどこか苦しそうで。
「もしかして、また熱が上がったんじゃ…」
近づいておでこに当てようとした手を取られた。
「與儀さん…」
「俺もいれて?」
ニコッと笑ってそのまま腕を引かれて元いたソファに連れられ、そのまま座った與儀さんの膝の上に乗ってしまった。
「與儀、さん…?」
「ん~?」
「これは、なんでしょうか…?」
「えへへ、ぎゅーーっ。」
後ろを振り返ろうとしたら、お腹に腕を回された。
(な、なにコレ…??)
顔をぐりぐりと肩の辺りに押し当てられてる。
膝の上に乗ったら身長の高い與儀さんとの距離はぐんと縮まった。
(えええ…っ?)
好きな人にこんなことされたら、どうしたらいいか分からない。
思い出して花礫くんを見るけど、全く目を合わせてくれない。
すっごく嫌な顔をして本を読み続けてる。
(花礫くん…ヘルプ…。)
私の祈りは虚しくも届かず。
「ねえ、何してたの?」
かかる吐息がこしょばくて、体が固まった。
「…マフラーを編んでたんです。」
「へ~え。」
(なんなんだろう、この空気。)
與儀さんの腕に捕まってる私にはどうすることも出来ない。
「…與儀さん、鼻声じゃなくなりましたね。」
「うん!俺ちゃんと薬飲んだもん。
ね、偉い?」
「…そうですね、偉いです。」
「ホントに??じゃあ、撫でて。」
「……」
前に出してきた頭をそっと撫でてあげると、くすぐったそうに笑った。
(…可愛いすぎる…。)
まるで子供や猫をあやしてるみたい。
だけど、私を包んでいる腕も声も全部男の人のもの。
凄く複雑な気持ちになる。
「寒くないですか?」
「うん!松岡ちゃん温かいよっ。」
「そうですか…。」
(嬉しいんだけど、なんだかな…。
あ…)
やっと花礫くんと目が合った。
「ごめん、花礫くん…何の話だったっけ?」
「…別に。」
(あれ、なにか怒ってる…?)