第3章 貳號艇
「貳號艇(にごうてい)って?」
着替えを終えた私は、與儀さんと廊下を歩いている。
「輪《サーカス》にも色々あってね。
一般の犯罪は治安部っていうところが取り締まってるんだけど、
凛ちゃんを襲ったやつら…
能力者とかの特別な犯罪者を追うのが、俺たち貳號艇の仕事なんだ。」
「あの、能力者って一体…?」
「…能力者っていうのはね、
火不火(かふか)っていう組織が作りだしたもので、まだよくは分かっていないんだ。」
「そうなんですか…。」
自分の知らないところでそんなことが起こっているんだと思うと、少し怖くなる。
「大丈夫?不安にさせちゃったかな…?」
與儀さんは申し訳なさそうな顔をしている。
(與儀さんが悪い訳じゃないのに…)
「そんな顔しないで下さい。
私は大丈夫ですから。」
とっさにそう口にする。
(與儀さんは優しい。
きっとこの人は、悲しんだり、落ち込んだりしてる人を見たら放っとけないんだろうな…。)
なら、せめて自分はそういう顔はしないようにしようと思った。
助けてもらったうえに、ここにおいてくれるんだ。
これ以上の迷惑はかけられない。
…それに、
(この人のこんな顔は見たくない。)
「よかった。」
安心したように與儀さんは言った。
(ここにいる間は、暗い顔はしないでおこう。)
横目で與儀さんを見ながらそう決めた。
それから少し歩いたところで與儀さんは立ち止まった。
「ここだよ。」