第2章 輪《サーカス》
~與儀side~
部屋を出た俺は“嬉しい”って気持ちでいっぱいだった。
だって、彼女が
「助けてくれてありがとうございました…!」
って言ってくれたから。
(すっごく嬉しかったな…。)
「ありがとう」って言葉はこの仕事をしてるとよく言われるんだけど、彼女のは何故か凄く心に響いた。
(なんでだろうな…)
考えても分からなかった。
(まぁ、いいや。)
そう思って彼女を待とうと思ったんだけど、
俺は気づいてしまった。
「あ、れ?
松岡ちゃんを助けたのって、俺じゃない…???」
たしかに俺は格好つけて登場し、彼女を保護した。
けど、能力者を倒したのは俺じゃなくて平門さん。
俺は見てただけ…。
それってつまり、助けたのは平門さんってこと?
(ど、どうしよーー!???)
真実に気づいてしまった俺はかなり焦ってる。
だって、彼女は“俺”にお礼を言ってくれたんだもん!!
あんなに真面目な顔して、少し照れながら、でも真っ直ぐに伝えてくれたんだよ!!
それなのに助けたのは俺じゃないなんて、申し訳無さすぎるでしょっっ!!!
あの時、松岡ちゃんは直ぐに気を失った。
(ちゃんと覚えてなくて、俺と平門さんをまちがえてるんだ…
…言えないよ。)
あんなに一生懸命言ってくれたのに、がっかりさせたくない。
「…よし。」
決めた。
(松岡ちゃんが“俺”にむけて言ったあの言葉を、無駄にはしないよ。
これから、あの言葉に応えられるように、
俺、彼女を支えていけばいいんだ。)
…きっと初めての場所で色んなことがあると思う。
嫌になるかもしれない。
ここにいたくないって思うかもしれない。
…そんなとき、俺が彼女を支えてあげるんだ。
そんで、今度は本当に、俺にむけての
「ありがとう」
を言ってもらうんだ!!!
「よぉーーーし、
頑張るぞぉぉーーーっっ!!!」
俺は密かに決意をしたのだった。