第16章 ぬくもりも切なさも
「……ちゃ、ん…」
…誰……?
何て言ってるの?
「…松岡、ちゃん…」
そっか。
私を呼んでるんだ。
聞きなれた優しい声で。
この声を聞いてると安心する。
優しくて温かくて、大好きな声。
「松岡ちゃん」
その声につられるようにゆっくり目を開ける。
「………」
開いたけど、閉じてるのと変わらないくらい視界が悪い。
ボーッとする。
ただ辛うじて見えるのは2人の…人。
1人は私の近くに座ってて、その奥にもう1人立っている。
その人達が誰なのかまでは分からない。
「松岡ちゃん…っ!?」
意識が薄いのか、気が付いたの?って声が遠くで聞こえる。
やっぱり好きな声。
座ってる人がベットに手を置いて立ち上がろうとしたのがなんとなく分かって、出来る限りの力を振り絞ってその袖を握った。
「…行かないで……」
聞こえるか分からないくらいの小さな声で、小さな力で。
どうしても貴方に近くにいてほしい気持ちになった。
「………」
気配でその人が座ったのが分かる。
(ありがとう…
與儀さん。)
なんでだろう?
私の頭の中は貴方でいっぱいだったの。
きっと、傍にいてくれてるのは貴方だろうって
疑うことなんて忘れたみたいに。