第13章 2人の事情
病院に通うようになってから数日後。
「松岡ちゃんっ!」
「與儀さん?おはようございます。」
病院へ行こうと艇を降りようとした私を、與儀さんが呼び止める。
「おはようっ!
今日も病院行くんだよね…?
俺、送ってくよっ!!」
走ってきたのか、息が少し切れている。
(…與儀さん、最近忙しいんだよね…。)
調査のため、朝早く出ていくこともあれば夜遅く帰るから日も。
そのせいかここ数日あまり話をする機会もなかった。
(こんな風に言ってくれるのは嬉しい。
送ってくれる間、一緒にいられるから。
でも、無理はしてほしくなくて前を歩きだそうするのを止める。
「いいですよっ!羊に送ってもらうんで…。」
羊さんを抱き抱え、そう言った。
この羊さんはあの一件の時の子。
あれから私の部屋によく来るようになって、送ってくれると言ってくれた。
「…そっか…。気を付けてね。」
「はい、ありがとうございます。
與儀さんもゆっくり休んで下さいね。」
羊さんに掴まれて空を飛んでいった。
「後で迎えにくるメェ。」
「うん、ありがとう。」
袋を片手に、病院へと入っていった。
「おはようございますっ。」
「おはよう。」
日の光りに照らされた繋さんはとても綺麗で見惚れてしまいそう。
「どうしたの?」
「い、いえ…。」
「今日は十夜が来ない日だから、女の子2人きりね。」
「十夜くん来ないんですか?」
「ええ。週に1度、工場の人達の集まりがあるんですって。」
「へえ…。」
(きっと嘘、だよね…?
工場で働いてないし…。
本当は何してるんだろう?)
浮かぶ疑問を口にはださず、椅子に座り編みかけのマフラーを取り出す。
「だいぶ進んだわね。これならもうすぐ出来上がるわ。」
「ほんとですかっ?でも…下手っぴですね。」
繋さんのと比べると縫い目の綺麗さが全然違う。
「そんなことないわ、上手よ?
それに、見た目より気持ちが大事なんだから、」
「気持ち…。」
(…與儀さんにつけてほしい。
お仕事に行く時とか買い物に行く時とか…
つけてくれたら嬉しいな。
「ありがとう」って喜んでほしい。
いつものお礼を届けたいよ。)