第9章 落ち着かない
~與儀side~
「泣いてたの?」
そう聞いたら、彼女は俺を見つめてきた。
(…なんか、可愛い…かも。)
ほっぺたを俺につままれている松岡ちゃんは、小動物みたいで可愛いかった。
「え…?」
質問の意図がよく解らなかったのか聞き返した彼女の声に、我に返り説明を付け足す。
ほっぺたに当てていた手を離しながら。
松岡ちゃんは羊を恨むように、呆れるようにしてたけど、その声は全然優しかった。
(やっぱり泣いてたんだ…。
…その涙を、俺が拭ってあげられれば…)
あの時そう思った。
もどかしくて、苦しかった。
(今でも思ってる。
これからだって、)
「もう1人で泣かせたりしないから。」
顔を上げた松岡ちゃんの頭を引き寄せてそう言った。
腕の中で松岡ちゃんは慌ててる様だった。
自分の胸を貸すなんて格好いいこと言ったけど、
(俺じゃ落ち着かないかな…?)
って少し不安になっちゃったよ。
でも、それは内緒。
「…與儀さん…」
(何て思ったかな?)
続きの言葉を待とうと思ったら、次に聞こえたのは羊の声。
「離れるメェ。」
その声と共に俺の体は床に転がっていた。
「松岡に近すぎるのはだめメェ。」
(な、何言ってんの、この羊さん…??)
心配して声をかけてくれた松岡ちゃんにひらひらと手を振る。
(羊をどけてほしい…)
そう思ったけど、
「わ、私部屋に戻りますね…っっ。
おやすみなさい…っ!」
って俺のことなんて見向きもしないで部屋を出た。
「え?なんで…??」
床に寝転がったまま、上に乗ってる羊を捕まえる。
「いいところだったのに…。」
羊さんはとぼけたような顔してる。
「何がいいところメェ?」
「何がって、松岡ちゃんが泣いてる時一緒にいて良いか聞けるとこだったんだよ?」
「なんで一緒ににいたいメェ?」
「え…?」
何か核心を突かれた気がしたけど、その時の俺にはまだ分からなかった。
「もう邪魔しないでね?」
質問には答えず俺も部屋へ戻った。