第9章 落ち着かない
「え…?」
「あ、いやあ、鼻をすすってる音が聞こえた気がして…。」
少し慌てて與儀さんは手を離した。
(そんなとこまで録音してたの…っっ!?)
「羊さん…。」
自分の膝に乗せた羊さんを少し恨めしく思う。
「…やっぱり泣いてたんだね…?」
「…はい…。」
(穴があったら入りたい…っっ。)
そんな気持ちでいっぱいの私に、優しい声が降ってきた。
「ごめんね?
…もう、1人で泣かせたりしないから。」
「え…」
顔を上げると頭を引き寄せられ、そのまま與儀さんの胸のなかにおさまった。
(っっ!??)
「よ、與儀さん…っ??」
「もし次泣きたい時があったら、俺が一緒にいてあげる。
俺の胸、貸してあげるから。」
ね?と優しく包みこんでくれる。
「…與儀さん…。
…ありがと…」
「近いメェ。」
お礼の言葉を遮る様に、私と與儀さんに挟まれていた羊さんが声をあげた。
「羊さん…?」
「近いメェ。離れるメェ。」
ポカンとしている與儀さんに向き直り、ソファから落とした。
「なぁーーーっっ!?」
「羊さんっ!?な、何を…っ!??」
「松岡に近すぎるのはだめメェ。」
床に落とされた與儀さんの上に乗り、まだ何か言っている。
「ハ、ハハ…
松岡、ちゃん、優秀なボディーガード、だね…。」
「だ、大丈夫ですか…っ?」
「なんとか…。」
ひらひらと手だけで返事を返す。
(…私、なんでこんなにこの羊さんに気に入ってもらえてるんだろう?)
訳はよく解らなかったけど、少し助かったと思っている自分がいることに気づく。
(…びっくりしたな…。
急にだ、抱きしめるから…。)
思い出すと一気に顔に熱が集まった。
(まずい…。)
「わ、私部屋に戻りますね…っっ。
おやすみなさい…っ!」
與儀さんの顔を見ることができず、そそくさと部屋を出た。
「ふー…
落ち着けぇ…。」
深呼吸をして息を整える。
(あんなこと急にされたらびっくりするよ…。)
部屋に帰ってからも、しばらくドキドキはおさまらなかった。