第6章 残りの時間
次の日、ご飯や着替えは昨日の羊さんが運んできてくれた。
だから、特に部屋を出る理由はなかった。
…と言うより、出たくなかった。
皆に合わせる顔なんてなかったから。
会ってもどうしていいか分からないから。
1人の時間は、辛くて苦しくて押し潰されそうだった。
太陽もすっかり沈んだ頃。
(あれ…
もう着いたんだ…。)
窓から見えるのは、見なれた景色。
(そう、しよう…。)
心を決めて、ふらつく足で平門さんの部屋へ向かった。
コンコン
「はい?」
「松岡です…失礼します。」
少しの沈黙。
「どうした?」
「…もう、着いたんですね。」
「ああ、明日の朝降りるつもりだ。」
「…」
声を絞り出す。
「…今から降ろして貰えませんか?」
「え…」
(…皆に忘れられたくない。
…でも、あんな状態でお別れするより
こっちの方がずっといい。)
「…本気か?」
「…はい。」
「…そうか、分かった。
準備をするから外で待っていてくれ。」
「…はい。」
静かに外に出た。
それから平門さんと艇の出口に向かった。
「何も言っていかなくていいのか?」
「はい。…これでいいんです。」
「まったく、頑固だな。」
平門さんに抱えられ、村へと降りた。
「ここで大丈夫です。」
「そうか。」
「…今までありがとうございました。」
「いや、大したことを出来なくて悪かったな。」
「そんなことないです。凄く、良くして頂きました。
本当に、ありがとうございましたっ。」
深く頭を下げる。
「ああ、じゃあ元気でな。」
ひるを返し、平門さんは艇へと飛んでいった。
(終わったんだ…
全部。)
冷たい風にさらされながら、懐かしい家へと歩きだした。