第20章 研案塔にて
置いていかれた私は、1人歩いていた。
(誰かいないかな…。)
道を聞こうと人を捜して角を曲がると、少し先に人が立っているのが見えた。
「あのぉ、すいません…」
呼びかけると、気付いて振り向いた。
灰色の髪に、丸眼鏡をかけた男の人。
(研案塔の人かな…?
白衣とか来てないけど。)
「どうしたの?」
突然呼びかけられたので、その人は不思議そうな顔をしてる。
「あ、あの…診察室ってどこにあるか分かりますか?」
「診察室?それなら真っ直ぐ行って角を左に行ったとこにあるよ。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「あ、ねぇ…」
お礼を言って通り過ぎようとしたら、右手を掴まれた。
「なんですか…?」
ちょっとびっくりして振り返るとニッコリ笑ってる。
「君さ、松岡ちゃんでしょ?」
「え…」
(なんで知ってるの…?私の名前…。)
口を開けたまま驚いてても、ずっと笑ったまま。
でも、笑ってるのは顔だけな気がする。
「あれ、違った?」
「いえ…そうですけど…?」
「よかった。聞いてた通り、お父さんにそっくりだね。」
「父を…知ってるんですか…?」
「まあね。
そんなことより、貮號艇はどう?楽しい?」
「え…」
(私が貮號艇にいることや、お父さんのことも知ってるなんて…
この人、何者…??)
たくさん質問をしてくる割に、自分のことは全く言わない。
ここは安全な場所なんどろうけど、少し怪しくも思ってしまう。
「…あれ、もしかして僕警戒されてる?」
思ってたことが顔に出てたのかもしれない。
「ぁ、えと…ごめんなさい。」
「あはは、素直だね。」
何を言っていいか分からなくて謝ると、笑われてしまった。
「ごめん、名前言ってなかったもんね。」
一瞬だけ金の瞳が妖しく光ったように見えた。
まだ右手は掴んだまま、その人は逆の手を伸ばして私の頭に置いた。
「怖がらなくていいよ。僕は…」
言いかけた声が止まったのと同時に、空いている方の手を掴まれて後ろに引っ張られた。
「わ…?」
そのまま背中が何かにもたれ、支えられる。
大きな手が肩に置かれた。
「何してるの…?」