第20章 研案塔にて
少し唖然としてる私の前に、繋さんが出た。
「燭先生、ありがとうございました。」
それに続いて十夜くんも頭を下げた。
(そっか…繋さんを助けてくれたのは燭先生だもんね…。)
「命を助けるのが私の仕事だ。
礼を言う必要はない。」
高飛車だけど凄い人。
実力とか私には分からないけれど、そう思った。
「ナースが君を探していた。
そこの角を曲がった所にある部屋に行くといい。」
「はい、先生。
じゃあまたね、松岡ちゃん。」
もう1度深々と頭を下げ私に手を振り、2人は歩いていった。
私も手を振って見送った。
「よかった…。」
ふいに口をこぼれた言葉に、後ろにいる燭先生がため息をついたみたい。
「全く呆れるな。」
「いた…」
さっきまで読んでいた資料で頭をポンと叩かれた。
「燭先生…?」
「まあ…突飛な考えだが人の命を大事に思うその心がけと自分以外のためへの行動力は、悪くない。」
「え…わあ…っ!」
見上げようと思ったら、資料で髪の毛をぐしゃぐしゃされた。
まるで照れ隠しでもしてるみたいに。
「…ありがとうございます。」
素直にお礼を言うと、頭にあったものはあっさりなくなった。
その代わりにまた厳しいお言葉が。
「誉めてなどいない。自惚れるな。」
「ぁ…すいません。」
(別に自惚れた訳じゃないんだけどな…。)
なんだか接し方が難しい人なのかもしれない。
きっと優しいんだけど、素直じゃない真面目な人…?
これが私なりの分析かな。
髪の毛を整えながらなんてことを考えていると、燭先生は歩きだしてしまった。
慌てて後を追いかける。
「療師はどこへ行かれた?」
「それが分からなくて…ここで先生を待ってろって言われたんですけど。」
「はあ…薬を取りに来たくせに、困った人だ。」
「薬、ですか?」
「貮號艇で療師が使う物だ。
大方君に用を押し付けようとしているんだろう。診察室に用意してあるから先に行くといい。」
「え…」
あの人を連れて後から行く、そう言って燭先生は1つの部屋に入ってしまった。
(え…
診察室って、どこ……?)