第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
その日の晩は、巡察から帰って来てから、やっぱりあの日がいた場所まで行く事にした。
居なかったら居ないでいいし!
なんて、ほんとは居たらどうするつもりだ俺…なんて思ってるけど。
ゆっくり歩いてれば、あの日聞こえてきた細い綺麗な歌が聞こえてきた。
俺に気づいて、歌が止まる。
「驚かせて悪い。続けて歌って。」
そうさらっと言えば、歌は再開された。
歌ってるの横に腰を下ろす。
は空を見上げたまま歌ってる。
「何の歌?」
歌詞に詰まって、歌が止まったのを見計らって聞いてみると、
「んー…神様の子が生まれた日おめでとうの歌…かな?」
なんて答えが返ってきた。
「聖なる夜とか歌ってたよな…宗教か?…ってお前きりしたんか!」
やべえやつがいたもんだ、と少し驚く。
「キリシタン?違う違う。確かにキリストの歌だけど…違うの。私のいたとこでは、そんな本当のお祝いする人なんて全然いなくて…街中きらきらにかざって、大切な人と過ごしたい日…みたいな…そんな日に流れてる歌。」
浅はかでしょ?なんて笑いながら空を見上げてるは、やっぱり寂しそうだ。
「本当のお祝いする人から見たら、浅はかだけど…私は一番好きな季節だったの。」
静かな声色が、澄んだ冷たい空気に消えて行く。
とくとくとく、と、相変わらず心臓は早いけど、こうやって話すが嬉しくて、相槌をうちながら、聞くことに専念した。
「木にね、沢山飾りつけをしたり…光らせたり…夜がすごく明るい季節。」
「へえ…」
楽しそうに話すに、俺まで楽しくなって来る。
「それぞれが大切な人と過ごしたい日…かな。」
そこまで話して、は止まった。
「どうし…」
どうした?って言いながらの方を向けば、空を見上げ続けるその瞳に、一筋の涙が流れてる。
「あはは。ごめん。」
そう言いながら、指で涙を拭うを、すぐにでも抱き寄せたかったけど…
「帰りてえよな…ごめんな…」
こんな場所に拘束しちまってる事がうしろめたくて…抱きしめたりする資格もねえなって思った。