第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-
風間様の唇は熱くて…唇どころか舌までが、私を侵食していく。
自分の体が、自分のものではないみたいな感覚に襲われて、膝から力が抜けていった。
さらに強く抱き寄せられて、風間様の口づけは止まらない。
私はこのままどうなるのだろう?
気持ちがいい…
食べられてしまうのかしら?
そんなことを思いながら、風間様の口づけを受ける。
いつの間にか唇は離れていて、足の力を失って、その場にへたり込んでしまった私を、風間様は抱きとめてくださった。
心臓はもう壊れてしまったかもしれない。
息はちゃんとできているかしら…
あんなに焦がれた風間様が、今は目の前にいて…
私はその腕の中にいる。
嗚呼…風間様…私は貴方を…
「」
お慕いしております…と言葉にする前に、風間様の低い声が私の名を呼んだ。
口づけをしたからなのか…その声はいつもより甘く感じる。
「」
ぼぅっとしていた私の名を、風間様はもう一度呼び…
「俺と共に生きろ」
と、私の頬を両手で包んだ。
俺と共に生きろ…
え?
えっと…
「俺の嫁に来いと言っている」
混乱している私に、風間様は少し強めの声色でそう言うと、
「断らせはしない」
そう言って、触れるだけの口づけをくださった。
季節は巡って、肌を刺すような冷たい風が吹く。
庭中に散った山茶花の花びらを、冷たい水をはった桶に入れた。
「綺麗…」
きらきらと陽の光で瞬く水面と、紫がかった紅色の花びらに想いを馳せていれば、
「」
と、愛おしい声が聞こえる。
「千景様、おかえりなさいませ。」
そう言って微笑む私に、愛おしい旦那様は口づけをくれた。
「もう山茶花が散る季節か…」
桶に浮かべた山茶花の花びらを見て、千景様はいつもより優しく微笑む。
私が千景様と出会った、大切な季節。
大切な花。
椿のように花ごと散ることもなく…
桜のように慈しまれることもなく…
冷たい季節を生き抜く強い花。
「…お前を愛している」
息が出来ないほどの深い口づけが降り注ぐ。
鬼の貴方と永遠に時を刻めますように…。
山茶花(サザンカ)-風間千景- 終