第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
「違うよ。ここに居させてもらえなかったら…今頃どうなってたことか。だから、謝らないで?感謝してるの。」
まるで俺が抱き寄せたがってるのを知ってるかのように、伸ばし損ねてる右手をの小さい手が、そっと包んだ。
あったけぇ…
こんな寒空の下なのに、の手はあったかい。
「今年は、好きな人と過ごしたかったんだけどね…」
俺の右手との左手は繋いだ状態で、俺的にはそっちに神経が集中しちまってる状態なんだが…は再び空を見上げてそう言った。
その言葉に、心臓がちくりと痛む。
「好きな人…か。」
期待なんてしちゃいねえけど…痛え。
「ふられちゃったんだ。ここに来るちょっと前に。」
空を見上げ続けるは、なぜだか微笑んでる。
「…でも、よかったかも。」
そう言って、視線は空から俺に移った。
月明かりは、相変わらず…を綺麗に照らしてる。
俺の右手に重ねられたの左手を、今度は俺が包んで握った。
「俺が…いるよ。」
鼓動は最速記録を更新してるし、小さくて折れちまいそうなの手を、どんな強さで握っていいかもわからねえけど…
真横で月明かりに照らされてるが綺麗で…吸い寄せられるように、唇を合わせた。
「ごめんっ」
はっと我に返って唇を離せば…
「…やばい。嬉しいかも。」
なんて…は繋いでない右の指で唇を抑えてはにかんでる。
そんな姿見ちまったら…やべえだろ。
「もっかいちゃんとしていい?」
少し緊張が混ざる俺の言葉に、こくり、と頷くの顎を捉えて口づける。
「ねえ…平助君。私を好きになってくれる?」
口づけた後のの言葉に、思わず噴き出した。
「今更かよ。俺…好きな奴にしかこんなことしねえし。」
かわされ続けてた腕は、ようやくを抱き寄せることに成功して、小さくて細くて柔らかいを抱きしめる。
きりしたんのことはよくわからねえし、の故郷がその日を祭りみたいに過ごすってのもよくわからねえけど…ありがとな…なんて…聖なる夜とやらにひそかに礼をした。
聖なる夜に-藤堂平助- 終