第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
「だ、大丈夫?二人共!」
心配する千鶴の声が背中に聞こえる。
支えた腕に少し力を入れて、を立たせると、は、
「ごめん…ありがとう。」
と笑った。
そして、また…すっと俺の腕から離れて、桶を拾い上げてる。
腕に残ったの感触。
思った以上に細くて…
触れたことのない柔らかさだった…
心臓はどんどん早くなって…顔に熱が上がるのがわかる。
「お?平助、赤いぞ?」
いつの間にか居合わせたしんぱっつぁんのからかう声に、
「ばっ…ち、ちげーよ!」
なんて弁解して、再び井戸水を汲んでるの所へ行って、桶をとりあげると、
「俺が運ぶ」
なんて強気に言ってみたりして、赤くなった顔をごまかした。
は、そんな俺にまた笑顔をくれる。
「…お洗濯桶までお願いできる?」
そんなのお安い御用だ。
「まかせろ!」
そう返事をすると、は俺の目を見て微笑んで、くるりと背をむけてどこかへ行ってしまった。
心臓は早いままだ。
この心臓の早さの意味を、俺は知ってる。
「あ~…やべ~…」
桶を持ったまま、俺は空を見上げて呟く。
「ん?どうした平助?」
俺の様子を伺ってる、しんぱっつぁんと千鶴が目に入った。
「…なんでもねぇよ」
不思議そうな顔をしてる、しんぱっつぁんと千鶴を置いて、俺は目的地まで急いだ。