第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
とは全然話した事なかったし…まだ屯所にも来たばっかだし…好きだとかそういうのを考えるような関係でもなかったけど…さっきのが…
凄く綺麗だと思った。
ん…うわ…俺…を抱き寄せようとしたよな?
酔いはもうとっくに醒めてる。
かわされて、宙に浮いた手がもどかしい。
なんだか悶々としながら、部屋へ戻った。
あれから七日くらい経つけど、あれ以来の歌声も聞こえない。
もう一度…聞きてえな…あの歌……
今度あの歌うたってくれよ、って言いたくて…
夜よりも朝一番なら…変なかんじにならねぇよな、とか思ってるんだけど。
未だ朝の井戸で会えてない。
「平助君?ぼーっとしてるけど、具合悪いの?」
千鶴の声に、はっと我にかえる。
「あっ!ちゃんおはよう。」
嬉しそうな千鶴の声につられて振り向けば、が「おはよう」と、あの晩…綺麗だなって思った笑顔で言ってる。
ちらりと俺を見て、その笑顔で、
「平助君、おはよう」
って…言われたから…
心臓が故障したみてぇに早くなった。
「…はよ」
目を逸らして、そう言うのがやっとだ。
また、歌が聞きたいだなんて、言えるわけもなく…
千鶴に教えてもらいながら、井戸の水を汲むをただただ、ぼーっと見つめた。
水を汲み終わって、が桶を持ち上げたんだけど…
ん…ありゃまずいんじゃ…
持ち上げた瞬間、体勢が崩れることが容易に想像できて、俺はの元に駆け寄った。
想像通り、ぐらりと体勢を崩したを、片腕で支える。
桶は倒れて水がこぼれた。