第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
その歌声に吸い寄せられるようにして、声の主の側まで行けば、ピタリ、と歌声が止まった。
座り込む影は息を潜めてる。
「?なんだよ。幽霊かと思った!」
内心、超驚いたんだけど…平然として見せる。
ってか…
「こんな時間に何やってんだ?しかもこんな隅っこで。総司に見つかったら「斬っちゃうよ」っとか言って本気で斬られるかもしれないぜ?」
「…ごめんなさい。」
「いや、謝んなくていいんだけどさ!ここ寒みぃじゃん。風邪ひいちゃうよ。」
そう言うと、「ありがとう」って小さく聞こえて、は暗がりににこりと微笑んだような気がした。
月明かりの下だから、昼間ほど表情はよく見えないけど…なんだかその青白い光もすごく似合ってて、ドキリ…というかゾクリとした。
あんだけ飲んだのに…もう酒なんてすっかり体からぬけちまってる。
「な、なあ…歌…うたってたのか?」
自分の挙動がおかしいのを隠すために、話を振る。
「…なんとなく。」
「へぇ…なんの歌かわかんなかったけど…故郷の歌か?珍しいかんじだったけど…」
あんな音階?旋律?よくわかんねぇけど…聞いたことねえ。
まるで異国のものみたいだ。
「うん…。私のいた場所では…この季節にはいろんなとこで聞こえてくるかな。」
そう言いながら、は目を細めて空を見上げた。
その姿が、すごく綺麗で…でも切なくて…どこか寂しそうで…消えてしまいそうで…
俺はに手を伸ばした。
すっ――と、
は、伸ばした俺の手が触れない距離に動いて、俺の手は行き場所を失った。
は、俺の方を見てふわりと笑う。
そして…
「寒いね。…部屋に戻るね。」
そう言うと、くるりと方向を変えて部屋へ戻ってしまった。
伸ばしたままの自分の手を、ぼーっと見つめる。
偶然か?いや…かわされたんだよな?
「あいつは難しい女だろうな。」
飲みの席での左之さんの言葉が蘇る。