第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-
「それはな…」
風間様は鬼なのじゃ。
俗に鬼は悪とされるがの…そんな事は無い。
鬼は人より力がある故…それを疎み、利のために使おうとしてきた人が創り出した虚像じゃ。
そんな風間様と屋はのう…時にその偉大な力に助けられ、人から追われた時には我々が匿い…
そうやって代々絆を深めて来たのじゃよ。
や…鬼を怖く無いと言ったな。
風間様を鬼だと知っても変わらないかい?
あの日…おじいちゃんから聞いた話を思い出しながら、庭先を歩いた。
風間様が教えてくださった、山茶花の花はもうとっくに散ってしまって、季節は桜が彩ってる。
あれからもうどのくらい風間様にお会いしていないのだろう。
もう二度とお会いできないのかしら?
それとも、また商いでお会いする日が来るのかしら?
風間様が鬼だなんて、そんなのずっと前から知っているわ。
さらさらと風に揺られる庭先の桜を眺めながら、ぼんやりと考える。
突然…ざわざわとあたりの風が変わった…と思えば…
桜の花びら達を背に舞わせて、こちらに歩いて来る風間様のお姿があった。
薄い桜色の風を纏う風間様は…幼い頃に見た、鬼のお姿。
その周りを、まるで桜の花びら達が、こぞって見せつけるかのように、はらりはらりと舞っているように見える。
「風間様…」
思わずつぶやけば、
「久しいな。」
と、焦がれていた低い声が聞こえた。