第1章 聖なる夜に -藤堂平助- (完結)
「おはよう平助君。」
いつものように朝起きて井戸へ行くと、千鶴の姿があった。
「平助君、まだ顔が寝ぼけてるよ?」
最近つーか、ほんの数日前に保護?ってか拘束?したばかりの千鶴とは、歳が近いから話がしやすい。
「えいっ」
「冷てっ」
この時期の朝の空気はすげえ冷たいから、井戸水攻撃はかなり冷たい。
部屋から出るなって言われちまってる千鶴だけど、朝に井戸に出てくるのは許されてる。
か弱そうに見えるけど、これが結構強い女の子で。
まあ、水かけられるくらいで元気出るなら、かけられてもいいか、なんて思ったり。
―あははは
と、俺達は朝っぱらから笑って、昨日は一君に怒られて、一昨日はしんぱっつぁんが混ざった。
あいつは…は…
やっぱ来ねぇか…
前の晩が夜の巡察で、眠くてもこの時間に井戸へ来るのには理由がある。
千鶴と一緒に、も来るかもしれないから。
千鶴と同じ日に拘束したは、どっから来たかもよくわからなくて、服装もなんだか変だった。
俺達に怯えて、終始声が震えてたな…。
千鶴に聞けば、最近は千鶴とは話すらしいが…元気が無いらしい。
せめて、こうやってふざけ合えたら変わるんじゃねえか?って思うけど、無理矢理誘って怖がらせるのも本末転倒だしな…どうすっかな…。
夜は左之さんとしんぱっつぁんと島原に飲みに出た。
やべ…飲みすぎたかも…
しんぱっつぁんにつられて一気飲みとかすんじゃなかった…
早くも明日に酒が残りそうな予感がして、俺は水を飲もうと井戸へ向かった。
井戸で水を飲んで、冷たい空気に身を任せて、酔いを少しさませる。
寒みい…
師走の夜は寒かった。
部屋に戻ろうと庭を歩いてると、人の気配と何やら微かに声のようなものが聞こえた。
声のする方へ気配を消して行ってみる。
それは本当に微かに聞こえるだけで…耳を研ぎ澄まさないと聞こえないような声。
庭の隅に小さく座り込む人影が見えた。
なんだ…?子供か?いやいや、夜中だろ…
まさか幽霊?
「………」
何を言っているのかよくわからない…言葉なのかも…はたまた何かの呪文なのか…
その影から紡がれる謎の言語に耳を傾けた。
どうやら歌っているらしい。
聞いたこともない韻律だけど、すごく綺麗な声だった。