第2章 山茶花(サザンカ)-風間千景-
「さて…や。風間様のお嫁様の着物の事だが…」
覚悟をしていたわけじゃない。
予想をしていただけだった。
だけれど、その予想は大正解で…
「お嫁様のお着物は後日、お前の手は借りずに風間様がお選びになるそうじゃ。」
息の根を止められたかのようだった。
「…なんで?なんで駄目になったの?」
まるで子供のようにぼろぼろと涙が落ちて来る。
それなのにおじいちゃんは優しく微笑んでる。
「や…。以前私が聞いたことを覚えているかい?」
悔しいとか、悲しいとか…そんな感情では表せない、もう自分でもよくわからない涙がとめどなく流れて、声にならない嗚咽も混ざって、本当に子供のように泣いていた私に、おじいちゃんは言った。
「鬼は怖いかい?」
唐突に聞かれたその言葉に、涙と嗚咽がぴたりと止まる。
「鬼は怖いものだと思うかい?」
「…怖くないわ。」
さっきまで優しくにこにこと、私が泣いているところを見守っていたおじいちゃんの表情は、真剣なものに変わっていた。
「それは…何故だい?」
おじいちゃんの意図がよくわからないまま、泣いて呼吸がひっくひっくと少しおかしくなったまま、質問に応える。
「鬼は…とても綺麗だったから…」
さらりと出て来た私のその答に、おじいちゃんはにこりと微笑んだ。
「は鬼を知っているんじゃな。」
うん、知ってる…と小さく言えば、風間様を想って、再び涙が目に浮かんで来てしまう。
「少し昔話をしようかの。」
おじいちゃんはそう言って、茶でも飲みながらにしよう、と部屋を出て行った。
鼻先には未だ風間様のお着物の香りが残っていて、耳には、さっき少しだけ聞けた風間様の声がはり付いているようで…
鬼と聞いただけで心臓が痛い。
この想いをどうしたらいいんだろう…